日々の泡立ち

泡立っては消えていく言葉の置き場。

指の隙間から見たものの正体

ノア・バームバック監督「イカとクジラ」観てきました。


http://www.sonypictures.jp/movies/thesquidandthewhale/index.html



両親ともに文学博士取得してるインテリ家庭。
父はかつての売れっ子作家(現在はパッとしない)で、超!頭でっかち。
一方、母は新進作家として脚光を浴び始めてる(そして実はこっそり浮気中)。
ついにある日、両親が離婚。
思春期真っ盛り&思春期さしかかりの息子たちは、大ショック。
父のウンチクを刷り込まれ口ばかり達者になった長男は、
全部「知った気になってるだけ」で自分では何も考えず、
突っ込まれれば「さぁ」って誤摩化すばかり。
「一流じゃなくて、そこそこのテニス・プロになりたい」なんて
無邪気に言ってた次男は
覚えたての自慰行為と飲酒に溺れ始めたりして。
まさに"ぶっ壊れてしまった”家庭。
家族4人全員、どこか壊れてる。
さあ、この家族、一体どうなる?


※以下、ネタバレあるかも


今回もこれまた、好きな感じの映画でした。
ほんと、淡々と「壊れた家族、その4人」を描いてるだけで、
最終的に、明確な回答や救いはないのです。
が、私にとっては、そこがとてもとても良かった。
だって、現実ってそんなもの。
あの家族が元通りになる、なんて到底あり得ないだろうし。
とりあえずパパ&ママの大人側は、
多分、ずっと壊れたままなんだろう。
ほんと、パパの”嫌なヤツ”加減といったら! 
屁理屈ばかりでプライドは山のように高く。
そしてママはママで、
こっそり浮気を繰り返し(おまけにパパに当てつけ)、
小説家として売れ始めたら、離婚。
じゃあ、子ども側、は?


...結局この映画は、
ダメな大人に育てられてしまった子どもの 「はじまりの物語」なんだろうな。
親になりきれず、結局"自分自身”を優先し続けた大人。
子どもは、親を選べない。
だけど、生きて行かなきゃならない。
ただ。
そんな日常を描き出すだけのこの映画に、
唯一の救いを見い出すとしたら。
ラスト、
「時間の無駄」と"現物にあたる経験”を切り捨ててきた"口ばっかり長男”が、
思い出の博物館、
幼い頃は直視できなかった"イカとクジラ”の展示物に足を運び、
しっかりと向き合ったこと。
彼は"もっと感情的だった”あの頃の自分に立ち返り。
そして、"怖かったもの”を直視する。
あの"イカとクジラ”を通して見えてくるものは...?


...でもまあ、
多分、ピンと来ない人にはとことん来ない作品だとは思います。
私は女だけれど、男の子だったらもっと違う印象を受けるのかも。
母親に対する気持ち、父親への想いとか。
一方で思春期頃の性的に揺れる感覚とか。
とりあえず色々、細かい描写が「上手いなー」って感じでした。
スノッブで、性に関してあけすけに話しちゃう家族の雰囲気。
女の子に対しての父親との"男同士”の会話、
一方で、ママの色恋話は聞きたくない息子の心理...とか。
加えて。
長男もパパも、"一緒に観た映画”をしっかり覚えてるところとかね。
そして、
ああいうパパを「他の人とは全部違ってた」って思って結婚しちゃう
若かりし頃のママの愚かさに、ちょっと身震い。
なんか、身に覚えある感じが...一時期、そんな男に弱い時期もありました(苦笑)。
で、結局、最終的にママは"凡庸で俗物(パパ曰く)”な男性を選ぶんだもんね。
でも実際、若さってそんなものだよなぁ。結婚も勢いとかなんだろうなぁ。
(が、結局、それで家族4人が壊れちゃうんだもんね...コワいコワい)
とにかく、私的にはやっぱり色々感じられて、面白く観れた1本でした。


思えば、今年は、 繊細に人間を描く素敵映画にたくさん出会えたなぁ。
そういう部分でも、良い1年でした。
後半、ちょっと観るペース落ちたけど...うううーん。