日々の泡立ち

泡立っては消えていく言葉の置き場。

淵に立つ夢

ジェームズ・マーシュ監督作『マン・オン・ワイヤー』を観ました。@銀座メゾンエルメス ル・ステュディオ
今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を獲得した作品。もともと、大道芸とかサーカスとか大好きなので「日本公開したら観たいなー」と思っていたのだけれど、よもや、こんな上映形態だったとは(詳細は下記)...あやうく見逃すところでした。


フランス人綱渡り師、フィリップ・プティ。彼を世界的に有名にした、1974年8月7日の出来事。ニューヨーク、今は無きワールド・トレード・センターのツインタワー間を綱渡りした、まさに命知らずの偉業。フィリップとその仲間達がいかにその無謀過ぎる計画を実行し、そして成功させたのか。当事者達の回想インタビューと当時の記録フィルム、写真によって綴られた作品。
フィリップは17歳の時、ツインタワー建設計画を新聞で目にした瞬間「これは僕のためのビルだ」と直感し、それを人生の夢として生きる。理由なんて無い。ただ、そう思ってしまったから。それに向かってひたすら前に進む。そして、彼の幼馴染みや恋人、彼とその夢に魅せられた人々が無償で協力をする。そこにも理由なんて無い。ただ彼の夢を実現させたい、それだけのために。何にせよ、それはまさにギリギリの淵を歩むようなもの。皆、その違法性も無謀さ加減も自覚してる。まさに綱渡り。だけど彼らの若さと情熱が計画を推し進めて行く。一方、現場実際に行われる”タワー間綱渡り”自体はとても繊細な芸。フィリップはその芸も平行して磨いていく。大胆さと繊細さ、そして精神力が必要な、まさに奇跡のような偉業。
完成したばかりで厳戒態勢で警備されている当時のツインタワーに60メートル分の重い重いワイヤーを担いで忍び込み、綱を渡す。そのスリリングさ。そして、ついに計画が成功し、フィリップが地上400メートルの高さに張られた一本の綱の上に立った時の、爽快感。当事者達のコトバは、30余年経ってさえも鮮やかにその興奮と崇高さを伝えてくる。まるで、私もその現場で彼の姿を目に出来たかのよう。
...そしてその後。その大きな夢と奇跡を共有したフィリップと仲間達は、それ故に道を分つ。そんな極限状態を経験したら、やはり軋みは生まれてしまうのかも...そんな犠牲を生みながらも達成されたどこまでも美しい夢の光景。その瞬間。


.......素敵な映画でした。観れて良かったなぁ。


でもって、今回の上映は、銀座メゾンエルメスでの上映会、“美しき逃避行”というシリーズの一環のようです。毎週土曜日のみ。11時、14時、17時の3回、各40名のみで完全予約制。ちなみに鑑賞料は無料。この『マン・オン・ワイヤー』は4月11日までなので、残りはあと3週、計9回ですね*1。今回初めて利用したのですが、さすがエルメス、セレブ感溢れる雰囲気でいつもと違った気分も味わえて興味深かったです...。洋画がだんだんニッチなもの扱いになりつつある最近、こういうカタチでの公開もアリなのかなぁとも思うのだけれど、やっぱり優れた映画は、もっとたくさんの人に目にして欲しいなぁと。まあ、とりあえずアカデミー受賞作ですし、きっとおそらく、一般的な公開もされるんじゃないかなぁとは思うのですが。

To Reach the Clouds: My High Wire Walk Between the Twin Towers

To Reach the Clouds: My High Wire Walk Between the Twin Towers

  • 作者:Petit, Philippe
  • 発売日: 2002/09/01
  • メディア: ハードカバー

*1:問い合わせ:メゾンエルメス 03-3569-3300