日々の泡立ち

泡立っては消えていく言葉の置き場。

太ももに、ひと刺し

ポン・ジュノ監督作『母なる証明』を観ました。


今回のテーマは”母親の無償の愛”。殺人事件の容疑者となった息子トジュンの無実を信じ、それを証明するために奔走する母、とにかくトジュンのためなら、まるで暴走機関車の如く“何でもする”その姿。テンポはゆっくりにみえて、でも切り口は鋭利。どうやら複雑な事情を抱えている母子家庭、その裏側を小出しにしつつ、事件の真犯人探しというサスペンス調で物語は進む。
(以下ネタバレあり/『殺人の追憶』ネタバレも注意)
とにかく、トジュンと母。その過剰なる関係性。“目がキレイ”と表される青年トジュン。良く言えば純粋無垢、ややもすれば発達障害を持っている?...と思えそうな描写がされつつ、どうもその裏には母子の過去が絡んでいる模様。その”過去”ゆえに、母は息子に行き過ぎと思えるほどの愛情を注ぎ、息子はどうも“もの覚え”が悪い。単なる母子の問題と思われたその過去が、実は大きな意味を持っていた...。
どんな町にも居そうな、母子家庭の一例。ごく普通で身近で、でもひっそりと存在する“狂気”。......そんなものに、思わず想いを馳せる。
なんとなく私は、この映画は『殺人の追憶』と合わせ鏡的な作品だなーと思ったのでした。......“犯人の顔は、普通”。
そしてこの作品は、やっぱり女性と男性でも受け取り方が違うんじゃないかな...と。殺されてしまった少女が携帯に撮り溜めていた写真。彼女は何故、あれだけ絶望しながらも写真は消さなかったのか?*1  そして、“母”が写真店の女性に勧める”子ができる薬”のシークエンス。“子を授かり産み育てる性”としての“女"...。例えば、それ故に“女性は幸せだ”なんて言説もあるけれども。苦悩の伴わない手放しの”幸福”なんて果たして存在するのか否か。...なんて、いろいろ考えさせ過ぎる作品ですね(笑。


本当に、ジュノ監督の“エンタテインメントとしての映画”を追求する姿勢は相変わらず素晴らしいし、冴え渡っているなぁとしみじみ。ただ、物語的には、うーん、“後味悪さ”は『殺人の追憶』も同じだけれど、やはり『殺人〜』の方が好きかなぁ...。

*1:私はなんとなく、“出来ずに終わった子”の想い出...的な印象を受けたのです。多分、考え過ぎだけど/苦笑